「財団設立記念研究助成」研究結果概要

研究結果概要

●6件、50音順・敬称略

氏名 新井 克彦
所属・役職 東京農工大学 農学部硬蛋白質利用研究施設 教授
研究課題名 食物抗原特異的T細胞エピトープの同定のための食物アレルギー罹患犬由来 活性化T細胞株の樹立
研究結果概要 本研究課題では、食物アレルギー罹患犬の末梢血単核球より、食物抗原と反応するCD4+CD25low T細胞株を樹立することを目的とした。本研究課題を遂行することで食物抗原により活性化されるT細胞株が樹立できれば、食物アレルギーに関連する主要エピトープをペプチドレベルで同定でき、さらに同エピトープが除去された新たな食物アレルギー用療法食の開発に寄与できることが期待される。本研究では、豚、鶏および魚由来のペプチドを、イヌ単核球培養液中に最終濃度 1 mg/mLになるよう添加し、4日間培養した後、CD3, CD4およびCD25についてフローサイトメトリー解析に供した。その結果、一部の豚由来ペプチドならびに鶏由来各ペプチドを添加することにより、CD4陽性細胞の増加が確認された。本研究により、食物アレルギーに関与するエピトープを同定するための有用な in vitro 実験系を確立する可能性が見いだせた。

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氏名 井上 祐三朗
所属・役職 千葉大学大学院医学研究院 小児病態学 講師
研究課題名 血清microRNAを用いた新生児・乳児消化管アレルギーの新規バイオマーカーの確立
研究結果概要 新生児・乳児消化管アレルギーは、主に新生児期に、牛乳成分が原因で消化器症状を認める非IgE依存性食物アレルギーであるが、その病態は未だ明らかではない。そこで本研究では、新生児においても容易に採取できる血清を用いて、新生児・乳児消化管アレルギーに特異的な分泌型microRNA発現を解析し、本疾患の新たなバイオマーカーの確立することを目的とした。
新生児・乳児消化管アレルギー児5名、IgE依存型牛乳アレルギー児5名、健康新生児5名から血清を採取し、179種類の血清microRNAの発現を網羅的に解析した。
新生児・乳児消化管アレルギー児では、健康新生児およびIgE依存型牛乳アレルギー児と比べて、hsa-mir-30c-5pの発現が有意に高く、hsa-mir-22-5pおよびhsa-mir-2110の発現が有意に低かった。これらの血清microRNAは、新生児・乳児消化管アレルギーにおける、新規バイオマーカーとなる可能性があると考えられた。
これらのmicroRNAの候補標的遺伝子には、免疫制御に重要な役割をもつ制御性T細胞の転写因子であるHeliosや、消化管炎症に重要なサイトカインであるIL-21の受容体があり、新生児・乳児消化管アレルギーの病態形成に関わっている可能性が考えられた。

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氏名 片倉 喜範
所属・役職 九州大学大学院農学研究院 准教授
研究課題名 アレルギー抑制食品の探索とその機能性の分子基盤解明
研究結果概要 本研究では、モデル細胞としてヒト幼若好塩基球前駆細胞(KU812F)を用い、抗原刺激後の1)カルシウム流入、2)カルシウム流入後のヒスタミン遊離、及び3)ヒスタミン合成酵素発現を指標に、抗アレルギー活性を有する乳酸菌の探索を行った。62種の乳酸菌を用いて検証した結果、1)~3)それぞれにおいて活性を有する乳酸菌を数多く同定することができ、その結果をもとに、乳酸菌の抗アレルギー活性パネルを作成することができた。そのなかでも特に、Pediococcus acidilactici属に属するH0709株は、1)~3)の活性を非常に強く有していることが明らかとなり、抗アレルギー活性を高いレベルで有する有望な抗アレルギー乳酸菌であると予想された。
今後はモデルマウスを用いたin vivo解析を中心に研究を進め、H0709株のアレルギー抑制活性を検証していく予定である。

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氏名 近藤 康人
所属・役職 藤田保健衛生大学 医学部小児科 坂文種報徳會病院 教授
研究課題名 低アレルゲン化食品による経口免疫療法:安全性と効果の検討
研究結果概要 本研究は、5歳以上で耐性獲得が望みにくい重症多魚種アレルギー患者に対し、以前の研究で作成検討した低アレルゲン化サケ魚肉粉末を毎日摂取させ、サケ魚肉20g以上、もしくは1年間(最大15か月)毎日経口摂取させ、安全性と効果について検討したものである。
現在、耐性獲得が困難と予測される食物アレルギー患者に対して、一部の施設で研究的に経口免疫療法が行われており、その効果は実感されている。しかし、最大の問題点はアレルゲン食品摂取継続中にアレルギー反応を生じることであり、アナフィラキシー反応を伴うこともある。
我々はこれまで、加熱処理や酵素処理などによりIgE結合能を低下させた低アレルゲン化食品を利用した経口免疫療法で、有害なアレルギー反応を惹起することなく寛解を導入することに成功してきている。今回は、サケ魚肉としての摂取可能閾値が2g未満(平均0.6g)の小児5例と病悩期間の長い成人例を対象に、サケ魚肉として20g以上に達するまで、もしくは1年間、低アレルゲン化魚肉粉末1gを毎日継続摂取させて検討した。研究期間中に副作用もなく、小児例では5例中4名、成人例においても半年~1年の間にサケおよびアジ魚肉20g摂取に到達できた。目標摂取量に到達できなかった小児1症例においても各魚に対するIgE値の低下がみられた。今回の研究により低アレルゲン化サケ魚肉粉末による免疫療法の安全性と効果が証明された。

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氏名 本田 善一郎
所属・役職 お茶の水女子大学 保健管理センター 所長・教授
研究課題名 ポリフェノールによるマスト細胞脂質リプログラミング機構の発見、及び食物アレルギー治療への応用
研究結果概要 食物アレルギーにおける感作成立にはIgEを介するマスト細胞シグナルが重要であり、感作時に同経路が活性化するとTh2細胞分化、特異的IgEの産生が誘導されるが、不活性化すると抗原特異的な調節性T細胞分化が生じて食物アレルギーの発症は抑制される。同経路における抑制標的としてIgE(IgE抗体)、Syk(阻害剤)が挙げられるが、新たな標的分子を同定することは重要な課題である。本研究では抗アレルギー作用を持つレスベラトロール(RSV)に注目し、新たな作用機序を同定することを試みた。株化、初代培養マスト細胞を用いた検討から、RSVが低濃度、短時間で細胞内シグナル、サイトカイン発現及び脱顆粒を抑制することが確認されRSVが早期の代謝過程を介して作用することが示唆された。リピドミクス解析からRSVはATGL(脂肪細胞TGリパーゼ)を介するTG分解、リン脂質分解を活性化して不飽和脂肪酸を遊離することが見出され、さらにATGL依存性の不飽和脂肪酸遊離はRSVのマスト細胞機能抑制に必須の上流事象であることが確認された。RSVは広範な脂質代謝を介して抗アレルギー作用をもたらす。詳細な解析からRSVによる不飽和脂肪酸遊離はFcεRIβの解離を引き起こしてシグナル遮断を起こすことが明らかとなった。RSVによる脂質組成変化、βの解離によるマスト細胞機能抑制は新たな作用メカニズムであり注目すべき治療標的である。

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氏名 山崎 栄樹
所属・役職 帯広畜産大学 畜産衛生学研究部門 助教
研究課題名 効率的洗浄マニュアル作成に向けた洗浄条件別アレルゲン残留発生確率予測式の構築
研究結果概要 保育施設における食物アレルギー児への対応において、食器や調理器具へのアレルゲンの残留は看過できない問題である。洗浄後の調理器具・食器等へのアレルゲンの残留に影響するファクターとして、食品の性状、食器等の性状、洗浄方法などが報告されている。本研究では、食品性状、食器性状、予備浸漬条件、予備洗浄条件、食器洗浄機使用の有無を様々に変化させた条件で洗浄を行った食器に対してFASTKITTMスリムを用いたアレルゲン残留検査を行い、その結果に対して回帰分析を用いたアレルゲン残留に対する各々のファクターの影響の包括的解析を行った。その結果、各ファクターの組み合わせからアレルゲンの残留発生の有無を予測する式の構築に至り、一連の洗浄工程の中で各々の条件のアレルゲン残留に対する影響およびその重要度の定量的な比較を可能とした。今後、本解析で用いた解析手法を発展させることにより、洗浄条件を変化させた場合のアレルゲン残留発生の危険度を予測する事が可能となり、このことは保育施設における効率的な洗浄マニュアルの構築に資するものと期待される。

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